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髪を乾かしドライでカットする方法を知ったのは14年位前になります。でも今のカット技法に至るまでには、3回程の忘れられない転機がありました。 当時の誰もがそうであったように、もちろんわたしも髪を濡らしウエットでカットしていました。自分なりの工夫は、フォルムを構成しているベース部分をハサミでカットした後で、毛先の収まりを良くしたい理由から、毛先にはレザー処理を施していく技法を用いていました。 その頃は、グラデーション系の重いスタイルは得意だったのですが、髪の表面に段を入れていくレイヤー系、特にハイレイヤーのスタイルは苦手でした。どうしてもレイヤーを、どこでどの位に入れたら良いのかが見え難かったからです。それとまっすぐにしかレイヤーのラインをカットできずにいたので、今と比べると収まりが極端に悪かったはずです…。 ドライカットは業界誌で見たり、講習会や、他の有名サロンへ潜伏して研究していましたが(笑)、お客さま全員に施すようになったのはずーっと後のことです。今までの自分のスタイルを手放してしまうことは勇気のいることでしたから、自分のお店を持つようになってからも、まだウエットでのカット比率が多かったと覚えています。 なかなか踏ん切りがつかないでいた頃に、難しい髪質でいつも時間がかかってしまうお客さまがいらっしゃいました。くせ毛で広がりやすく量も多い方で、ハチの部分も出っ張っているという、手強いお方です…(汗)。しかもいつもは、トップは長めのセミロングという安全なスタイルのはずなのに、その日にオーダーされたのはレイヤーバリバリの紀香ヘアー。さらに追い討ちをかけるかのように、店は週末で大忙し! 1度でもレイヤーの入れるポイントを失敗してしまえば広がってしまい、大変なことになるのは目に見えていました。「ドライカットで丁寧にひと束ごとカットしていこう。」時間はかかりそうだけれど、レイヤーポイントを失敗して、それを直すことになってしまう方が余計に時間がかかると判断したわたしは、襟足からうすーくパネルを引き出し、さらにひと掴みづつカットしていく作戦にでたのです。 アンダー部分はなんとかクリアー。いよいよミドルからトップにかけてのレイヤー部分です。かなりドキドキものだったのにも関わらず、カットしながら「なんだこれ?これは凄いぞ!」の、新しい発見と驚きがいきなりやってきました。はた目にもかなりのトランス状態だったらしいです。 何にそんなに感動したかというと、カットしながら頭の丸みが手にとるように伝わってきたからです。もちろん以前からなんとなく分かってはいたものの、それでもあれ程までに鮮烈に頭の丸みを感じながらカットできたことはありませんでした。ひと束ごとカットしていったおかげで、まっすぐにしかカットできなかったレイヤーラインが点と点で繋がりだし、丸くカットされていったのです。 「日本人の髪は硬いから丸く削るようにカットしないと収まらないよ。」講習会で耳にして以来、ずーっと心に残っていた言葉でした。 「これだ!」 ドライカット1度目の衝撃体験でした。 その時を境に、ほぼお客さま全員にドライカットを施していくようになっていきます。 しかし…。 ドライカットで切り始めた頃は、毛流れは無視してブローで求めるスタイルを作り込みながらカットしていたために、サロンではカッコ良く見えたスタイルも、自宅ではうまく再現できていないお客さまが多いと感じ始めていました。特につむじが2コ以上あったり、部分的に強い毛流れのあるお客さまにはうまく対応できていなかったと思います。 それでも、たまたま出かけて行った講習会場で解決策に繋がるヒントを見つけることとなります。 会場で知り合いの美容室の先生と偶然再開しお話しをさせてもらっているうちに、どういうわけか話題は、美容師国家試験の実技試験についてとなりました。その中でピンカールについてのアドバイスと移り変わっていく中で、「これはカットにも使える理論だ!」と、叫びそうになっていました。 ピンカールは、根元の流れを一気に変えて巻いたりすると、隣のカール同士の根元が別れやすくなり、収まりが悪くなります。例えば、前髪を右側に流したいと何本かのピンカールするときでも、徐々に全体の流れを右側に誘導していくのがベストだということ。 それならば、強い毛流れのある人をカットする場合でも、力づくで収めようとするのではなくて、少しづつ流れにそって毛束を引き出しカットをしていけば、うまく収まってくれるのではないか?という発想でした。 その人が持っているニュートラルな状態の毛流れに逆らわず、求めているスタイルへ徐々に向うようにカットすることで、自宅での再現性も高まったと思います。 この2度目のポイントとなった理論は、その後でパーマの巻方にもいかされていきます。ひと束ごとにカットし、それらを集めてフォルムを形成させていくカットスタイルに合わせて、ひと束ごとにパーマを巻いて行く技法を定着させることに繋がったからです。パーマが欲しい部分と欲しくない部分にも簡単に対応できるようになったことで、パーマデザインも一緒に広がり始めました。 ところが…(苦笑)。 自分の中では完成だと思っていた技法も、スタッフに指導する際に、あまりに細かく教えようとしてしまい、うまく伝えられないことに今度は苛立ちを感じ始めます。 今となれば、自分の中へ色々な思いと情報を詰め込み過ぎていて、うまく消化できていなかったのが原因だと理解できるのですが…(涙)。とにかく当時は、教えることの難しさに戸惑ってばかりでした。 どう練習カリキュラムを組もうか?どこから伝えたら分かりやすいのか?自宅でも教え方の参考にしようと、今まで集めたカットの本を広げては放り投げていた休日の午後、のどの乾きを覚え自分の部屋から台所に降りて行くと、次男が食べようとしていた夏みかんに目がとまります。 わたしはくだものは嫌いではないのですが、手荒れがひどくて柑橘系のくだものは染みてしまい、食べることは少なくなっていました。それでもあまりに子供の剥き方がひどいので、一緒に手伝ってあげることになりました。 「まず、トップのふたの部分をカットして」 「続いてまん中から下は縦スライスでカットするんだよー」 カットのことを考えていたからだと思いますが、自然とそんな言葉が口から出ていました。 3度目の発見はこうして夏みかんから生まれます(笑)。 スタッフにも細かく説明しようとせずに、ワンブロックごとに教えてあげえれば全体が見えやすということと、みかんの房の部分は三日月の形になっているので、レイヤーを丸くカットすることを説明するのにも役立ちました。実際の練習会でも、夏みかんを持ち出してカットしながら講習しました。丸くレイヤーを繋げる意味や、全体を5つのブロックに分けて構成すると全体のフォルムが見えやすく、どんなスタイル、骨格、毛流れにも自由に対応できることの話しはここから生まれていきます。 昔、自分が通っていたカット講習会では、床に平行にパネルを持ち上げて45°でカットしてくださいとか、ガイドラインを作ったらそれを前方へ引き出しながらカットを進めてください。と、ヘアスタイルの型の作り方だけを教えるものが多く、練習用のウイッグでは綺麗にカットできるものの、実際のお客さまではうまくできなかったり、似合わせられないことの方が多くて、いつもどこかに不満が残っていました。自分が知りたいのは、お客さまのオーダーに自由に応えられたり、自分が作りたいラインを表現できる技法なんだよ!と。 あれから数十年経ち、今では教える立場になりました。教えるということは不思議なことに自分もうまくなります。夏みかんを利用しながらスタッフに説明をしてから起きた変化は、より立体的にヘアスタイルを作れるようになり、あの頃に望んでいた自由を手に入れることができました。 そうそう、自由と言えば、同じ頃サーフィンにハマり始めました。いくらやってもヘタレなのは今も変わらずで、DVDを眺めてのイメトレだけはバッチリなのですが…。海に行けばやっぱり不自由。波に揉まれては必死に浮かび上がっています。海からの帰り道にいつも思うことは、今日の波を自由にメイクしていた他のサーファー達のこと。どうしてあのタイミングで波を捕まえられるのだろう?とか、あんなに切れるようにターンできるのはなぜろう?と、ため息まじりに考えてしまいます。 BUDDY GUUにはサーファーのお客さまも結構いらっしゃいまして、いつも波乗りの話しをしながらカットさせてもらうのですが、どうしたらうまくなれますかね?と、尋ねることが良くあります。いつもはみなさん「新しいボードを買えばー」とか、「筋トレでしょ」などと、ジョークばかりで答えになっていないのですが、先日ぐっときちゃう答えを返してくれた方がいらっしゃいました。
鏡越しに見たお客さまは、そう呟いて目を閉じてしまったので、続きを聞き出すことができなかったのですが、あれはマジだったのか、ジョークだったのか…(謎) それでもその時、わたしは心の中でこう呟き返しました。 「すべて一緒か…。自分が自由にカットできる法則を見つけることができたのは、たくさんのお客さまの髪に教えられてきたからだものな…」と。 |
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